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東京地方裁判所 平成5年(ワ)12692号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

原告と被告との間において、被告が別紙物件目録一及び二記載の各土地についての原告の持分につき賃借権を有しないことを確認する。

第二  事案の概要

一  判断の基礎となる事実

1  別紙物件目録一及び二記載の各土地(以下「本件土地」という。)は、篠田恵子、篠田猛、篠田秀夫、座間洋子及び原告の五名が持分各五分の一の割合で共有している。

2  原告ほか四名の共有持分権者は、昭和六〇年一〇月ころ、本件土地をゴルフ場用地として株式会社真里谷カントリー倶楽部(現商号・株式会社真里谷。以下「株式会社真里谷」という。)に賃貸した。被告の親会社であるオリックス株式会社は、昭和六三年八月二日、株式会社真里谷に対する融資の担保として、本件土地を含む真里谷カントリー倶楽部の借地の主要部分について譲渡担保権の設定を受けたが、株式会社真里谷が融資金の返済を怠ったので、平成四年六月一九日、右譲渡担保権の実行通知をして、本件土地の賃借権を取得し、オリックス株式会社の一〇〇パーセント子会社である被告は、同会社から右賃借権の譲渡を受けた。

3  オリックス株式会社は、平成四年六月一〇日、本件土地の共有権者である篠田恵子及び篠田猛から、本件土地の賃借権が株式会社真里谷からオリックス株式会社又はその関連会社に譲渡された場合には譲受人が賃借人となることの承諾を得ている。また、被告は、平成四年九月一〇日、本件土地の共有権者である篠田秀夫との間で、本件土地についての同人の持分を目的とする新たな賃貸借契約を締結している。

4  被告は、本件土地の持分の賃借権を被告に譲渡することを承諾した篠田恵子及び篠田猛並びに本件土地の持分に賃借権を設定した篠田秀夫に対しては賃料を支払っているが、本件土地の持分権者の一人である座間洋子及び原告との間では、賃借権の譲渡の承諾又は新たな賃借権の設定がなされていないため、これらの者に対しては賃料を供託している。

(以上の事実は当事者間に争いがない事実及び弁論の全趣旨により認めることができる。)

5  原告は、右事実関係に基づき、本件土地についての原告の持分につき被告が賃借権を有しないことの確認を求める。

6  これに対して、被告は、本件土地の五分の三の持分を有する者から本件土地を賃借することの承諾を得ているので、原告がこれを承諾しないとしても、原告から本件土地の明渡請求を受ける筋合いはなく、その意味で、被告の本件土地の占有は、法律上の保護を受けうる正当なものであると主張する。

そして、被告は、右主張に基づき、原告が被告に対し本件土地の明渡しを求めるものではなく、被告が本件土地の原告の持分につき賃借権を有しないことの確認を求めるものである本件訴訟は、原告と被告の間の紛争の解決に資するものではないから、確認の利益を欠くと主張する。

また、被告は、仮に本件確認請求につき確認の利益が認められるとしても、被告が株式会社真里谷から本件土地の賃借権を承継したことにつき、背信行為と認めるに足りない特段の理由があり、また、本件土地の過半数の共有特分を有する者から右賃借権の承継の承認を得ているので、被告は原告に対し右賃借権の取得を対抗することができると主張する。

二  争点

1  本件確認請求の確認の利益の有無

2  被告が株式会社真里谷から承継した賃借権を原告に対抗できるか。

第三  争点に対する判断

一  本件確認請求の確認の利益の有無について

1  被告が本件土地を占有していること、被告の右占有は、本件土地の賃借人であった株式会社真里谷から右賃借権を担保権の実行として取得したオリックス株式会社から譲渡を受けた賃借権に基づくものであること、被告は、右賃借権の譲渡につき、本件土地の各五分の一の持分権者である篠田恵子、篠田猛から承諾を得ていること、被告は、本件土地の五分の一の持分権者である篠田秀夫との間で、同人の持分につき、賃貸借契約を締結していることは、前記第二の一認定のとおりである。

右事実によれば、被告は、本件土地の各五分の一の持分権を有する共有者三名との間の賃貸借契約に基づき本件土地を占有している者であり、原告との間で何ら契約関係にあるものではないが、原告との間においても、単なる不法占有者ではなく、他の共有者から本件土地を賃借した者であるということができる。したがって、原告は被告に対し、当然には明渡しの請求をすることはできず、明渡しを請求するためには、被告の右占有権原が正当な占有権原とはいえないものであることを主張立証する必要がある。

被告との間でこのような立場にある原告が、被告に対し、自己の持分について賃借権を有しないことの確認を求めることは、確認の利益を欠くものというべきである。原告と被告の間で、原告の持分につき被告が賃借権を有しないことを確認しても、共有者の一部から土地を賃借して占有している被告の本件土地に対する占有権原に消長を来すものではなく、したがって、右の確認を求めることは、原告と被告の間の紛争の解決に資するものとはいえないからである。すなわち、被告は、原告の持分につき賃借権を有しないとしても、他の持分権者との賃貸借契約に基づき本件土地の占有を継続することができ、右確認が何ら紛争の解決につながらないのである。

2  原告は、被告が原告及び共有者の一人である座間洋子に対し賃料の供託を行っており、このまま被告の占有を放置した場合、賃借権の時効取得が成立するおそれがあると主張する。しかし、被告が原告ないし他の共有者に対して賃料の供託をしたというだけで、原告ないし他の共有者による供託金の受領がない場合には、仮にその供託を被供託者である原告ないし他の共有者が放置していたとしても、そのことが被告による賃借権の取得時効を起算すべき要素とはなりえないものである。原告の右主張は理由がない。

また、原告は、被告が株式会社真里谷の有していた賃借権を承継取得したと主張しているので、本件確認の利益は肯定されると主張する。しかし、被告の右主張は、本件土地についての原告の持分につき被告が賃借権を取得した旨を主張するものではないから、この主張によって、被告が本件土地についての原告の持分に対する賃借権を有しないことの確認を求める本件訴訟の確認の利益が肯定されるものではない。原告の右主張も理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告の本件確認請求は確認の利益を欠くものというべきである。

二  よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、棄却を免れない。

(裁判官 園尾隆司)

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